第8章 クロッカス
「そんな簡単に信じてるなんて言って、その後で裏切られたらどうすんのよ。
傷付くのは自分なのよ?ましてや、こんな世界でよく簡単に言えるわね。」
「あの……?」
「……ねぇこれ、ここに咲いてる花……何だかわかる?」
脇に咲いてる花を指差し唐突に彼女が聞いてきた。
翌々見てみれば、どっかで見慣れた花のような気はするが、名前までは知らない。
答えようがないので黙っていると、女性がゆっくり口を開いた。
「この花……クロッカスって言うのよ。
花言葉も教えてあげる。」
意味は……
私を裏切らないで。
彼女の声が変わった。
その場の誰の声でもない低い不気味な声が縁下と松川の背筋を一瞬にして凍らせた。
忘れようにも一度聞いたら忘れられないような嫌な声。
ここにいるのかと、縁下と松川が背中合わせに辺りを見回すが姿は見えない。
気のせいかと思ったのもつかの間、2人の視界にチラリと黒いものが掠め、何だろうとそちらに視線を移し息を飲んだ。
さっきまでドレスを着ていた彼女が、あの影になっていた。
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