第8章 クロッカス
「なんつーか……アレだよな。」
歩いていた足を止め、松川がポツリと呟く。
急に松川が止まった事により、並んで歩いていた縁下は二歩程前に出る形になり、松川を振り向いた。
「どうしました?」
首を傾げる縁下に、松川はワシワシと頭を掻いてから疲れたような表情で口を開いた。
「どうしましたっつーか、コレさ、出口あんのかよ。」
「出口があるかわからないから、こうしてひたすら歩いてるんじゃないですか。」
この巨大迷路を。
溜め息を着いて、縁下が空を仰いだ。
今2人がいるのはテーマパークであるような巨大迷路の中。
周りが垣根のような緑の植物で覆われており、所々にピンクのあまり見慣れない花がちらほら咲いていた。
故意にその迷路に入ったのではなく、目が覚めたらこの迷路のどの部分か知らない所で気を失っていたのだ。
目が覚めた時は縁下も松川もひとりではあったものの、出口を探すべく適当に歩いてる途中、程なくしてそれぞれがバッタリ鉢合わせに出会い今に至るのだが、迷路をさ迷ってから、かれこれ2時間は経っていた。
思い返す度に、縁下はこれがテーマパークだったらもっと純粋に楽しめたのにと、何度もそんな事が脳裏を過る。
所謂現実逃避だ。
「何時になったらこっから出られんのかね。」
「寧ろ出られるんですかね。」
松川の言葉に半ば絶望に近いような返答を返す縁下に、松川は「ぅっ……」と言葉に少し詰まる。
すると、丁度道が左右に別れている所で背後からカサリと音が聞こえ、反射的に2人が後ろを振り向く。
そこには数メートル程離れた右へ曲がる曲がり角の所に女性が首を傾げて立っていた。
誰だろう……
歳は二十歳前後くらいで、どういう訳かウエディングドレスを着ている。
ふんわりとしたドレスで裾が長い為、地面に触れてる部分は完全に土で汚れて茶色くなってるし、相当動き回ったのかボロボロに擦り切れてもいる。
ただ、汚れて汚い所は裾の部分だけであり、他は全て綺麗なままだ。
それに何より、今の状況にその人は異色過ぎる。
その女性から殺意みたいなものは感じられないものの、用心するに越した事はない。
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