第5章 リンドウ
影が口を開き、ゆっくり女性に向かって手を伸ばしてくると、すかさず女性は後ろを向きうっすら光るあのリンドウを容赦なく踏みつける。
跡形もなく踏みつければ女性は動きを止め、影のいた所を見るも全て影は消えていた。
「大丈夫?」
影が消えた事を確認し、女性が腕の痛みなど感じないとでも言うように茫然とする2人に笑いかける。
「いや、それよりもお姉さんの腕……」
「私は平気よ、私は人じゃないし血も出てるだけで痛みなんてないもの。
それに……」
女性の失われていない腕が菅原の頬へゆっくり伸びてくると苦痛に歪んだ顔にソッと触れる。
「貴方の凄く素敵な私好みの顔が見れたんだから、犠牲になったかいがあったわ。」
ありがとう、と微笑めば菅原がそのまま気を失いリンドウの中に埋もれるように倒れ込んだ。
そして今度は花巻に向き直る。
「あら、貴方もそんな表情出来たのね。」
菅原が倒れても花巻は慌てる事なく、女性を悲しんでるような表情でジッと見ていた。
「何でこんな事するんですか。」
「……別に、それは私の自由じゃない……腕だって痛みはないんだもの気にする事じゃないわ。
それに、私が好い人か何てわかりっこないでしょう。」
もしかしたら、今ここで私に殺されるかもしれないしね、と言えば花巻は首を横に振った。
「貴女はそんな事しません。」
「……根拠は?」
「リンドウを踏み潰した時、凄く辛そうな顔してました。
そんな人が俺らを殺すなんて事…っ!!」
花巻が言い終わる前に、女性は菅原の時と同様にソッと花巻の頬へ触れる。
花巻は一瞬目を丸くしたが、そのまますぐにその場へ倒れ込んだ。
「貴方の言った事は殆どハズレ。
リンドウを踏み潰した時辛かったのはそのリンドウが私自身だったからよ。」
自分を自分で殺すのは当然辛いでしょう?
そう思わない?と女性が真っ直ぐ顔を上げると、いつの間にか女の子が佇んでいた。
「この人達を守ってくれてありがとう。」
「お礼を言われる程の事は何もしてないわ。」
「そしてごめんなさい。」
「あら、柊も私好みの顔が出来たのね、消える前に良いものが見れたわ。
これで私も犠牲になってまで守ったかいがあったわね。」
「……。」
「ねぇ、柊……ひとつお願い事していい?」
「何?」
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