第4章 マリーゴールド
それは一瞬の出来事。
影が研磨に襲い掛かり、殺されると思った時には目の前に真っ赤な色が広がっていた。
なに?と疑問に思うと同時に、コロンとボールが転がって来て、それに視線を移すとそれはボールではなく……
黒尾の頭。
研磨が襲われる直前に目の前に広がった真っ赤な色は黒尾のジャージだった。
黒尾が研磨を庇って首を切られたのだ。
行き場の失った体はそのまま前に倒れこみピクリともしない。
流れるハズの血は一切なく、やっぱりこれはクロじゃなかったんだと、再認識した。
だけど、何故か研磨の心臓がばくばくうるさい。
もし、クロじゃなく俺が首を切られたら……
もし、このクロが本物だったら……
嫌な事しか研磨の頭に出てこなくて、そのまま研磨は意識を手離した。
「おい、狐爪!!」
慌てて岩泉が意識を失った研磨を抱き起こし、ただ気絶しただけだということを知ると胸を撫で下ろした。
女の子の件といい、今の黒尾の事といいあまりにも残酷すぎる。
「てめぇ、一体何が目的なんだよ。」
「は?何が?」
「こんな殺人みてーなことしてなんになるんだよ。」
「言ったでしょう?これは私の復讐なのよ、私からあの人を奪ったあんたたちへの復讐なの。」
「だから、あの人って誰なんだよ!!」
「あんたたちはあの女に騙されてるのよ。
何であの女と一緒にいるのよ、なんであの女が私よりも皆に愛されてるのよ。」
あの女……多分、こいつの言ってるのは聖夜の事だろう。
けど、なんだ?
聖夜が皆に愛されてるって……
一体なんの事を言っている?
岩泉が頭でなんの事なのか必死に考え、ハッと息を飲んだ。
考える事に夢中になりすぎて影が鉈を岩泉目掛けて降り下ろそうとしている事に気付かなかった。
ヤバいと思い、ギュッと目を瞑るも衝撃は未だに訪れず、ゆっくり目を開ければ影の姿は消えていた。
何があったと辺りを見回せば、及川がステージ脇に立ち、細い陶器の瓶を逆さまにしているのを視界に捉える。
そのまま足元に視線を移して行けば、及川が花を足でこれでもかと言うほどめちゃくちゃに踏みにじっていた。
「岩ちゃん大丈夫ー?怪我なーい?」
何事もなかったかのような笑顔で及川がゆっくり岩泉の元に近付いてきた。
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