第2章 睡蓮
「あの子は青城のマネだろ?」
彼氏か何かか?と聞けば、菅原が首を振って否定する。
「そんなんじゃなくて、聖夜ちゃんは翔の実の妹なんだよ。」
「妹?けど、翔は寺嶋で名字が違うだろ。」
「両親は3年前に離婚したんだよ。
特別仲が悪くて離婚した訳じゃないから、気にする必要ないって翔が言ってた。」
「……なるほどな……。」
そこで、一度話に区切りを着けた所でその場の空気が静かになる。
クロユリの花。
見ず知らずの学校。
翔の失踪。
果たしてこれらが意味するのは何なのか。
ましてや、この怪奇に翔の失踪は関係あるのかは曖昧ではあるのだが、何となく今の現状に無関係とも思えない。
「……あれ?」
すると何かに気付いたらしいリエーフが急に背筋をピンと伸ばし、辺りをキョロキョロ見回し始めるものだから研磨がどうしたの、とリエーフを見上げた。
「リエーフ?」
「何か匂いしませんか?」
「匂い?」
「凄く甘い匂い……ほら、あの……学校付近にもある、何でしたっけ。」
研磨もスンスンと鼻で確かめるが、特別研磨には何も匂いは感じ取れなかった。
それに習って皆も確かめるも、誰も匂いはしないらしく唯一日向が、「ホントだ!する!」と反応してくれる。
「あ?匂いなんてしねーじゃねーか。」
「はっ……!
もしかしたら、バカには匂いがしないのかも!」
「日向ボケェ!!誰がバカだボケェ!!!!!!!」
「いや、てゆーか、逆にバカにしか匂いしないんじゃない?
若しくはバレー下手くそ組とか。
実際匂い感じてるの日向とリエーフだけじゃん。」
良かったね、等と月島が何時ものように嫌みを含めてニッコリ笑ってやる。
何をー!!と掴みかかろうとした所で、澤村が落ち着け日向と止めに掛かった。
この不安な状況だと少なからずこういったやり取りは妙な安心感を持たせてくれる。
それぞれあまり顔には出してないが、変に緊張するより普段通りというのが、不安を少しでも取り除いてくれるのだと思う。
場合によってはそれも不安を煽るだけだが、何気無い日常のやり取りは今の現状を和らげてくれる方向へと持ってきてくれたようだ。
だけど、それも短いものですぐに恐怖は襲ってきた。
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