第13章 クワ
「これで一先ず安心して大丈夫だろ。」
辛そうにベッドに横になってる月島に目を向けながら、優しそうな顔つきの男性が田中に告げた。
田中は「ありがとうございます」と男性に頭を下げる。
場所は何処かの保健室。
と、言っても多分、皆が初めにいたあの校舎内の保健室かとは思うがあまり確証はない。
そもそも、穴に落とされてから次に気が付いた時、2人は随分古くさい板張りの校舎の通路に倒れていたのだ。
しかも月島と田中しか居なかった為、2人は行動を共にしていた。
行動を共にしていたというか、単に気付いたら月島と田中が一緒で、誰も居なかったというだけではあるのだが。
歩く度に、体重で床はギシギシと音を立て、今にも床が抜けそうな気配を漂わせている。
しかし、歩いても歩いても通路は続くばかりで、入り口らしい入り口など見当たらない。
入り口も無ければ曲がり角すらなく、ものの見事に直線が続いてるばかりだった。
一応窓ガラスもあるが、叩き破って外に出れないかと試そうとはしたものの、仮に叩き破れたとして、手なんて怪我したらひとたまりもなく、それは思い止まり、影が襲ってきた時の最終手段にすることにした。
そんな窓ガラス越しに見えてたのは田中と同じくらいの高さで、赤や黒い色をした木苺のような実が今の田中と月島の目には不気味に見えたのを覚えてる。
どこかで見た時のある木だなとも頭のどこかで思ったが、気のせいだろうとその時はスルーした。
そして何10分か歩き続けた所で、田中の背後からバタンと音がし、あの影が表れたのか!と振り向けばずっと奥に闇が続くばかりで、足元に目をやりつつ田中は倒れている月島を見て驚愕した。
どうしたんだと起こしてやれば、少々呼吸が荒く、まさかと思いきや額に手を当ててみれば酷い熱があった。
こんな時に!と思いつつも、突然の事に田中は慌てるばかりで、どうする事も出来なかった。
せめてどこか空き教室でもあれば休ませる事は出来るがそんな教室はどこにもないし、かと言ってまさかこんな通路に寝かせておく訳にもいかない。
いつ影が襲ってくるかもしれない今の現状。
ましてや熱で倒れた月島を庇いながら逃げるとか殆んど無謀に近いし、せめて月島でなく日向だったならば担いで逃げるくらいは出来たと思う。
が、今は影から逃げるよりも月島だ。
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