第1章 1
じりじりと夏の日差しが肌を焼く感触が、木陰に入ったことで和らぐ。小高い丘の上にあるこの寺にずっとある桜の木。
みずみずしい緑色がしだれかかって太陽の光を弾いている。時が過ぎるのは早いもので、もう三回目の盆が近い。人間の命は案外あっけなく失われてしまい、そして記憶から去ってゆく。
抜けるように高い青空は変わらずある。青のなかの白がコンクリートの階段を上ってゆく。
その男―笠松幸男―は白いシャツに汗を染みさせながら一歩一歩上ってゆく。手にはしなやかに首をもたげた百合の花束と水桶。ほぼ頂上に近い墓所に彼は無言で向かう。
盆の直前ということで人影はまばらで、供物の花たちも心なしか元気がないように感じられる。