第11章 37日目
「?」
「はい?」
「今の可愛かったから、こっちにおいで。」
二宮くんがおいで、と手を動かす。
おニューのスカートにシワがつかないようにソファーに腰掛けた。
「スカート、ぐしゃぐしゃにしたら行けないね。」なんて意地悪そうに笑って私を後から抱き締める二宮くん。
「それは意地悪です!」
「ふふ、嘘嘘。」
すぐ後ろから聞こえる二宮くんの含み笑いと体温の温かさに、また行きたくない気持ちが膨らんでしまった。友達には会いたいけど、今はこの数少ない時間を体に染み込ませたい。
私がその空気に酔いしれて、少し寂しくなっていると、それを感じとったのかまたふふふ、と声が聞こえた。
「ねえ?」
かすれたようなわざと出す低い声に心臓が破裂しそうになる。
「…は、い。」
「ほんとは行ってほしくないけど、楽しんでおいで。」
「…うん。」
回された腕をキュッと握ると、二宮くんが言葉を続ける。
「他の男に靡いてもいいよ。」
「…え、」
二宮くんの言葉の意味が読み取れなかった。すぐにふふふ、と笑うと、任せてよ、とまた意味深な言葉をくれる。
「他の男に持っていかれた時は、その場に乗り込んで連れ戻してあげるから。」
耳元で囁かれるそれに背中がゾクッとする。
「…二宮くん、本当に、行きたくないです。」
「あははっ、だーめ!行ってらっしゃい!でも浮気はダメー!」
あの耳元で囁やく声とは違う、子供のような笑顔を見せる二宮くん。行ってきますの前にこんな気持ちにさせるなんて、やっぱり二宮くんは意地悪だ。