第29章 二人の場所
大倉はと二人の部屋で無言で過ごしていた。
気まずさを感じながらも、
離れる事を拒否するように
部屋の窓から外の景色を眺めていた。
その時、
庭に黒いフードの者が歩いて行くのが目に入った。
慌てて部屋にいるを見ると
ベッドで眠り始めていた。
大倉は、
眠り始めているに布団をかけると、
起こさぬように頬にキスをして部屋を出た。
大倉は、フードの者が自分を呼んでいると思った。
だから、わざと人目に付く庭に現れたのだと。
大倉はもう、あれが誰なのか悟っていた。
大倉は、普段誰も行くことのない
庭の奥に足を踏みいれた。
ここは、前の彼女が眠りにつくまで、
二人で会っていた場所だった。
ここで、愛を語らい、喧嘩をした
あたたかい思い出の場所だった。
彼女が眠りについて以来、
一度も訪れた事はなかった。
手入れされてないこの場所は、
雑草が腰のあたりまで生えていた。
その奥にフードの女は立っていた。
大倉「...」
大倉が言葉をかけると
女は頭から被っていたフードに手を伸ばし
フードを取った。
「私は実体を持たない幽霊です」
大倉は静かに頷いたが、
自分の気持ちを抑えられずに手を伸ばしてみたが、
言葉の通りに自分の手は相手の身体をすり抜けた。
「忠義....お願い、ちゃんと聞いて欲しいの...
もう、あまり時間がないから....」
大倉「分かった、何かを伝えに来てくれたんだね」
その言葉に女はゆっくりと頷いた。
ゆき「全てのカギはマリアのもう一つの顔なの....、その顔はあのお客さんのもう一つの顔.....」
大倉は不思議そうな顔をした。
大倉「もう一つの顔?」
女は小さく頷き、また頭からフードを被りなおした。
ゆき「忠義、幸せになってね」
そう言葉を残すと静かに大倉の前から
煙のように消えてしまった。
大倉は暫くの間、
その場で涙を流していた。