第1章 【短編】鈍感なのは誰?
「……お、美味しい、ですか?」
「ん…悪くない。」
「そ、そう、ですか。」
涙目になりながらその崇高なお口にパンをちぎって食べさせる私。緊張しすぎて手がプルプル震えている。よく見たら私、手まで真っ赤っかだ。嫌だもう恥ずかしすぎる!!
当然幾ら時間がたとうとも目が覚めることはなく、周りの人はもう既に見て見ぬ振りだ。私もそっち側にいきたい。ドキドキして震える手でスープを運ぶのに一苦労。スープで濡れた色っぽい唇を舌で舐める仕草に釘付けにならないようにするのも一苦労。そうしてようやっと全て食べ終えた(させた)兵長は、満足したように口角を上げて立ち上がる。
……兵長が、離れた……
内心、やったー!!と叫びつつ私も立ち上がる。食器は私が片付けます!と声をかけて机の上の物を纏めた、が。
ぐわっと身体が浮いて。
ぐらり、と視界が逆さまになって。
いつの間にか食堂を出ていた。そして現在進行形でそれは遠ざかっていく。いや、遠ざかっているのは私か。…何で食堂が遠く…え、何で逆さま…あれ?何か私浮いてる?
腰に覚えのある体温が巻き付いている感覚がしてはっとする。この石鹸のいい香りも、さっきまで同じ空気に漂っていたやつだ。慌てて顔を上げてその人物の顔のある方を向けば、見覚えのある刈り上げた後頭部があって確信した。
「へ、へへへ兵長!!?」
「なんだ。」
「え、ちょ、っ!ええ!?」
まさか、兵長に米俵よろしく抱えられているのか私は!慌ててじたばたしてみるも、大人しくしてろと誘拐犯並に凄まれてしまい、されるがままに連れて行かれた。
兵長の執務室に。
そして降ろされた先が、兵長のいつも座る椅子。部屋の真ん中に置いてあるソファーとか床とかではなく、執務室の、少し立派な椅子。そこに私が…─
「!?」
兵長の椅子は兵長が座る、それは当然だ。だから何もおかしくはない。
でも、兵長の椅子に兵長と私が座るのはおかしすぎる。
兵長は私をその足の間にちょこんと座らせ、自らは私を抱え込むようにして仕事を始めた。訳の分からない状況に頭の中が沸騰状態だ。
兵長の香り。
兵長の呼吸。
兵長の温かさ。
それらがダイレクトに私の五感に伝わってくる。心拍数が今までの比じゃないくらい増加していく。血が巡りすぎて身体中があっつい。
兵長が、近すぎる…っ!
───…もう、駄目……
