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箱庭【夢小説の庭】

第1章 【短編】鈍感なのは誰?


顔に火がついたみたいに頬がもっと熱くなっていく。右手であくせくしながらスープを飲んで、ひたすら兵長と距離をとることを考えている私。早くなくなれー!とヤケになって高速で口に運んでいく。口元に少しスープが滴るが、今は関係ない。


「おい。もう少し落ち着いて食え。」
「!?」


ぽんぽん、と口の端に柔らかな布が当たる。それは明らかに零れたスープを拭っているではないか。かちり、と固まりつつ兵長を見れば、どこか優しい雰囲気で私を見ていて叫び出しそうになる。心臓のばくばくが凄くていつか破裂しそう…っ!誰か助けて!と辺りを窺うも、周りも私と同じように固まっていた。

…分かる。そうなるよね。

ふと、彼の目の前にもパンとスープが置いてあるのが見えた。今まで動揺しすぎて気付かなかったが、これはチャンスだ。食事を促して放してもらおう。この際、兵長が自分の食事そっちのけで私を構う理由は考えない。早く解放してください。


「へ、兵長!兵長も食べないと!」
「…ああ。そうだな。」
「……」
「……」
「…食べないんですか?」
「俺は右利きだからな。」


じゃあ離せよ!!

というのは死んでも口に出せない。この作戦が駄目なら、やはり早く食べ終わるしかない。先ほどみたいに零さないように、でも急いで物を食べる。漸くこの地獄が終わる…!と最後の一口を口にして、ふうっと息をついた。

…………

なんでまだ離してくれないのだろう。


「…あの、私もう、食べ終わりました…ので…」
「見りゃ分かる。」
「えと…なので手を…」
「食べさせろ。」
「……へ?」
「ああ…手か。なら離してやる。」
「!ほ、本当で…っきゃあ!?」


右手は離されたものの、私と兵長の密着度は先程以上。腰に腕が回っていて、ごつごつした大きな手が私の右腰に添えられている。

え、ちょ、待って。



「さっさと食わせろ。」



あ。と口を開ける兵長に目眩がした。ちょっと可愛いとか思ってしまったこの思考がバレれば即削がれてしまうだろう。

ああ、そうか。これは夢だ。きっと夢なんだ。お願いだから早く覚めて…!
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