第3章 【短編】待ち恋
『お前が好きだ。』
唇から伝わる熱に翻弄されながら、混乱した頭で必死に考える。"気付いてくれない"って、貴方は私に何を気付いて欲しいの?"待ってやった"って何?"何年も"っていったい何時から?
『…待っていて欲しいよ。』
ふ、と…何かを思い出す。誰かとの会話。
…ああ、そうだ。あの時の、同期の彼との会話…─
『ロゼってさ、恋人いたことねぇだろ。』
『うっ…だから何?関係ないでしょ。』
『まあ、お前もさ、年頃の女だろ?欲しいとか思わねぇのか?』
『別に。私は兵士だし、この心臓も身体も人類の未来に捧げているもの。恋人はいらない。』
『…お前を好きだという奴が現れたとしても?』
『それはその時にならないと分かんないよ…でも、出来れば何も言わずに遠くからでも見守っていて欲しいかな。私、好きとかよく分からないから…うん、ちゃんと気付くまで待っていて欲しいよ。』
何も言わずに遠くから、見守っていて欲しい。
気付くまで待っていて欲しい。
もしかして、兵長はあの時の会話を聞いていた…?だとすると私のことを好きだと言ったのは本当のこと…?彼は、私のあの時の言葉の通りに気持ちを伝えることをせずに遠くから見守っていてくれて。そうして今まで待っていてくれたけど、私が何時までも気がつかなくて…ずっと、あの日から今日まで我慢していたというの?
今までの行動と今起きていることを照らし合わせると、辻褄が合っていく。噛み合っていく事実に不思議と今まで感じていた嫌悪が消えていき、代わりに言いようもない何かがこみ上げてくる。
瞼の上にあった手のひらは、いつの間にか私の髪に優しく添えられていた。そっと目を開けてみると、切なげに眉を潜めて長い睫毛を軽く伏せつつ、優しく私を見る瞳と目が合った。トクン、心臓が音を立てた。
この気持ちは、何?