第3章 【短編】待ち恋
「…はぁ…どうにかならないかな…」
兵舎の裏にある大きな木の根本に座り込んでうなだれる。もう一度大きく息を吐き出して、脱力に任せてずるずると身体を倒していく。木の葉と葉の間から見える青空と射し込む太陽の光が綺麗だなーと現実逃避をしてみるも、長いこと続く悩みの方に思考を巡らせてしまう。
兵長は本当に何故私に目を付けているのだろう。自分で言うのもあれだけど、それなりに要領よくやってきているし大きなミスもしていないし兵長に迷惑をかけたわけではない。間接的に少しは迷惑かけたかもしれないけど。そもそも接点すらないくらい関わったことはない。
あ、そういえば入団した時からずっと睨まれてるんだっけ…ということは入団前に何かしてしまったのだろうか。過去を振り返りつつ思案するも、訓練兵団の視察で来たと当時の教官から紹介があった時の舞台越しとか、廊下ですれ違って挨拶したとかの小さい機会くらいしか共通の思い出はない。
が、廊下のくだりでふと同期との会話を思い出す。確かその会話の途中で兵長がやってきて、木材を運ぶとか言ってその同期を連れて行ったんだったかな。そして、私に自主訓練くらいしろと一喝して…
確かそれ以降からすれ違うこともなくなって、いつの間にか兵長は視察を終えて帰っていた。それから会うことはなく、調査兵団の入団式に再会して…睨まれ生活が始まったんだ。
さて…色々思い出してみたけれど、やっぱり原因は分からない。直に聞いてみるのが一番なのだが、遠くの視線だけで既にビビっている私が更に近い距離でそれに射抜かれてしまったら…多分失神するだろう。それは避けたい。打開策を考えるために目を瞑ってうんうんと唸ってみるものの、やはり何も思いつかない。それどころか、ぽかぽか陽気にあてられて段々と眠くなってきてしまった。
(ああ、寝ちゃ駄目なのに…体力トレーニングしなきゃ…なの…に…)
起きなくてはいけない理由を考えても、身体は既に睡眠モード。仕方ない…少しだけ寝てしまおう、と諦めた途端に私の意識は飛んでいった。