第3章 【短編】待ち恋
向かう先はとりあえず厩舎だ。愛馬の世話は荒んだ心を癒やしてくれる。仲間の死に目や、"アレ"のことを少しながら忘れさせてくれる大事な大事な存在。最近は忙しかったのでなかなか行けなかった。今日は思う存分構ってやろう!とうきうきとした足取りで厩舎に入れば、そこには先客がいた。
「あ、エレンくん!」
「ロゼさん!お疲れ様です!」
「エレンくんもね。馬の世話?」
「はい。最近バタバタして来れなかったので。」
今日はいっぱい甘やかしにきました。そう言って笑う彼に私もだよ!と笑い返した。お互いに馬の毛並みを撫でながらここ最近の事などについて話の花を咲かせる。
エレンくんは巨人化スキルの持ち主で、しかもそれを制御できるという人類の希望の人。最初は周りからの嫌悪や監視の目が厳しかったものの、彼の持ち前の努力精神で巨人化が制御可能になった今はそこまでする必要はないと判断され、こうしてある程度自由に歩き回ることが出来るようになった。こんな風になかなか話すことも出来なかったため、話す度に何だかとても新鮮な気持ちで不思議な感覚だ。
「ははっ!ロゼさんってやっぱり面白い人ですね!」
「エレンくんこそ!」
「俺、前からお話してみたかったんで嬉しいです!」
「え?そうなの?」
「でも兵長がいたんで話しかけづらくて…」
…そうなのだ。得体の知れない人物という以外でも、彼の監視任務を兵長が直々におこなっていたというのもあって、私を含めた周りは近寄ることすら出来なかった。エレンくん自身から気軽に話しかけることも、許可なしには許されない行為。きっと苦しかったに違いない。だってあの兵長が傍にいるんだもの。
…あの兵長、が…
「……痛い。」
「え!?大丈夫ですか!?どこが痛いんですか!?」
「背中、が、」
「俺さすりますよ!…どうですか?和らぎそうですか?」
「うっ!…っ…」
「あれ?え?ちょ、寒いんですか!?どうしてそんなに震えてっ…ロゼさん!!」
噂をすれば影。"アレ"がきた。
「え、エレンくん…」
「は、はい!」
「何処かに兵長、いない…?」
「…え?兵長って…リヴァイ兵士長、ですか?」
「こっち、見てない?」
「見て…?え、えと……………」
「見てない?」
「……めっちゃ、睨んでます、こっち。」
ああ、やっぱり。