第2章 【短編】溶け合った希望
しかし、そう感じたのもつかの間。景色がひっくり返り、夕焼けの空が見えたと同時に背中の痛みを感じた。それから射殺すような視線に即座に気付き、誰のものか理解して一瞬死を覚悟した。
リヴァイ兵長が、怒ってる。
どす黒いオーラに、騒然としていた人たちは口を噤んでそろそろとその場を後にしていった。私も逃げたい。
「おい…」
「は、はい!」
「てめぇ、さっきなんて言いやがった。」
「…えと、ぐぅっ!?」
いつかのように思いっきり胸倉を掴まれて、息が詰まる。
「私なんか?置いてけ?ふざけてんじゃねぇぞ…!」
「へ、ちょ…?」
「俺がどんな思いで…!!」
「リヴァイ。その辺にしておけ。」
「だ、んちょう…」
「撤退だ。暗くなる前に壁内に帰るぞ。」
「…ちっ!おい、ロゼ。帰ったら覚悟しろ。」
「は、はい…?」
「行ったか…さて、ロゼ。君の誤解を解かないとな。」
「…?」
─…エルヴィン団長は私に信じられないような話をした。そのわけの分からない展開についていけず、ぼんやりとした中で同僚達に体中の粘膜を拭われ、毛布でぐるぐるとくるまれてあっという間に横向きで馬に乗せられた。
─…リヴァイ兵長の手によって。
よく見たらこの黒馬、兵長の愛馬だ。そう認識した瞬間、私の体が何かに優しく包まれた。
その原因は私の後ろに跨がった兵長で、私をその腕で包囲するように手綱を持ち、不機嫌そうな顔をこちらに向けていた。
「…行くぞ。怖けりゃ腕に掴まってろ。」
「へ、?きゃっ…!」
突然体に響いた振動に驚いて、思わず兵長の逞しい腕にしがみついた。でも彼は何事もないようにそのまま馬を走らせて片手は手綱、片手は私の頭を優しくつかんでいた。そして、自らの胸板にやんわりと押しつける。とくん、とくん、と聞こえてくる。兵長の心臓の音。
彼も、生きてる…─