第4章 恋敵
浴室を出て部屋に戻れば、タイミング良く携帯が音を立てて振動し始めた。一瞬彼かもしれないと期待をして恐る恐るディスプレイを見れば、それは見事なまでに打ち砕かれた。
『あ、めぐみねーちゃん?遅くにごめんね。今大丈夫?』
「なんだ和成か…。」
『なんだってなんだよ!第一声がソレって酷くね!?』
耳元でぎゃんぎゃんと喚く年下の従弟には悪いが、ちょっとでも期待してしまった自分が少し恥ずかしい。赤くなる顔が誤魔化せるのが顔の見えない電話の利点だろう。未だにブツブツと文句を言う従弟を軽く受け流して、用件は何かを尋ねた。
『あ、そうそう。オレさ、一人暮らし始めたんだ!』
「え、そうなの?大学まで遠かったっけ?」
『んーまあまあかな。なんか、社会勉強も兼ねて自立してみろって親父が言うんだよ。』
「ああ、そういう事ね。で、用件はその報告?」
『いやそれもあるけど。本題は違くて。あのさ、めぐみねーちゃん良いバイトとかって知らない?』
「バイト?」
聞けば、自立を促された従弟は当然の様にバイトを始める事にしたらしい。そこまでは強制されていないらしいが、どうせ一人暮らしをするなら社会勉強も兼ねて経験したいとの事で。相変わらずハイスペックな思考回路だな、と内心感心しながらも、私ははてと首を傾げる。