第4章 恋敵
あのあと、泊まっていくようにとの誘いを無理やり突っぱね、何とか自分の家に帰宅した。夜も遅い時間だったし最後まで征十郎くんは渋っていたけれど、何を言っても私にその気がない事を悟ると不機嫌を露わにしながらも家まで送ってくれた。本当に渋々だけど。私自身、想いが通じ合って一緒に居たい気持ちはもちろんあった。それでも、帰らなければいけない理由があったのだ。
(だって……耐えられない!)
そう。物心ついてから、私は異性と想いを通わせて男女交際というものに発展したのが恥ずかしながら今回が初めてだった。別に恋愛に興味がないわけではない。何となく出会いがなくて、免疫も耐性もなくて、そういう状態に慣れてしまったからこそそもそもの興味自体がだんだん薄れていってしまったのだ。異性を見て格好良いな、とか好みだな、と思う事はあっても、それが恋愛感情には直結しなかった。好意を感じてもそれを自分から言い出せるほど積極的な人間でもなかった。結果が、この様だ。
征十郎くんはあんなに容姿も整っていて非の打ちどころのない人間だから慣れているかもしれないが、私にとって男女交際というものは未知の領域。そんな状態で一晩一緒に居るなんて、パンクしてしまう!征十郎くんの事はとても好きだ。だからこそ、嫌われたくないしマイナスな面を見せたくはない。いろんな感情が渦を巻いて、恋愛経験値の乏しい私は自己保身のために帰宅する道を選択せざるを得なかった。でも、帰宅してからも考えるのは征十郎くんの事ばかり。ああもう、色惚けにも程がある。恋愛に現を抜かして他の事が疎かになるのは誰よりも私自身が許せないので、ぶんぶんと頭を振ってシャワーを浴びた。それでも浴室で征十郎くんの温もりや感触を思い出して一人で赤面し、冷水を被ったのは誰にも話せないだろう。