第5章 六年前
「桃?大丈夫?ごめんね。高い所怖かったよね。気失ってたよ。」
目覚めたら知らない場所だった。
「何処…病院?じゃないよね。」
傍には悠以外にも匡と令が居た。
「此処は僕の郷…天狗の郷だよ。」
何があったのか分からなかった。
「ねぇ村は…?お母様は?」
此処は危険だ。そう思った事しか覚えていない。
「わからない。でも村にはもう帰れないと思う。」
やっぱり…もう村が無いことはなんとく分かっていた。
「そっかぁ。もう、無いんだね。」
これから何処に住むのか、どうやって生きていくのか。考える気にもならない。村が無いということは皆も居ないということだろう。
「これからお前は此処に住め。どうせいつか悠と結婚でもするんだろ?なら、いつ住み始めようが変わんねえよ。」
言葉は荒いけど優しい。匡さんはそういう人だと悠が言っていた。