第4章 祝福する【高尾 和成】
「勝手にすればいいのだよ」
「やめろって言わないの?」
平然と返ってくる答えに振り返ると、
真ちゃんは笑って、
「言って欲しいか?」
確信していた。
「ばいばい、真ちゃん」
だから答えを濁して、私は和成の元に歩いた。
そうだ。
これは御伽噺じゃない。
だから普通に考えれば、
白雪姫は毒で死ぬし、眠り姫は目覚めない。
シンデレラなんかはずっと苛められっぱなしだ。
それでも、私は…………。
「和成」
彼が私に気付くと同時、私はその名を呼んで、
ネクタイを力任せに引っ張り顔を引き寄せると、
ぐっと背伸びをして強引に口付けた。
勢いだけの行為は刹那で、
「サヨナラだ。馬和成。
もう二度と愛さないんだからな」
周りの空気が凍りついたのが分かる。
叫ぶ者や笑う者、様々な声が上がるのを、
私は嘲笑った。
さよなら、和成。
背を向ける直前、怒ってもいいはずの彼の瞳から、
涙が落ちたのが見えた。
たったそれだけ。
だけど私には十分理解できた。
理解出来たから、
貴方と同じく頬を伝うコレはなんだろうか。
……あぁ、そうだ。きっと言葉にするなら『失恋』だ。
ざわめきが止まない中、
10年分の私の思いは吹き抜ける風と共に飛ばされた。
END