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Orange【黒子のバスケ/短編集】

第2章 さよならも言えずに【火神 大我】


茜色に染まる教室にひとり。


やけに静かな教室。

吹奏楽部の練習の音や、
運動部の掛け声がはっきりと聞こえる。


時刻は午後5時24分。

机に置かれた原稿用紙には
オレの名前しか書かれていない。


先日5回目の遅刻をして出された反省文。

期限は今日の放課後なのに、
シャーペンは全く進んでいなかった。

この反省文のせいで部活を二日連続で休んでいる。
これは絶対にカントクにしばかれるやつだ。

シャーペンの先で原稿用紙をつつき、ため息をこぼした。


コロンとシャーペンを手放し、
両手を挙げてぐっと背伸びをする。





ふと、隣の席が視界に入った。


そこはもう、あいつの席じゃなくて、

教室からは机と椅子がワンセットなくなっていて、



「……そっか、あいつ、もういねぇんだ…………」



小さく呟くと、原稿用紙にぽたりとシミができた。

雨漏りでもしたのかと上を向くと、
こんどは頬をつたう感覚。


慌てて目元に触れれば、
自分が泣いていることに気がついた。

制服でごしごしと擦るが止まってくれない。





あいつはーーーーー鈴木はもういない。


あいつと恋人でもなかったオレは通夜に呼ばれることもなくて、
突然の死だったからなにかメッセージがあるわけでもない。

そのせいか、
頭では理解していたけど、
どこかでそのことを否定していた。

いつもみたいにひょっこり現れる気がして、
楽しそうに笑いながらちょっかいをかけてくる気がして。


けれど、あいつがいない毎日を過ごせば過ごすほど
現実を突きつけられた。




あいつは、もういないんだ。


机と椅子がひとつなくなったことも、
惣菜パンばかりの袋の中にシュガーデニッシュがないことも、

全部当たり前の、いつも通りになっていくんだ。






先生にあいつの住所を聞いて、
線香をあげにいこう。

もちろん、シュガーデニッシュを買って。





窓から見える夕焼けの赤さが目に染みたけど、

気づけば涙は止まっていた。






END
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