第6章 〈エース〉あなたがいない世界は
ーー戦争が始まり、辺りには倒れている人で溢れている。
「……」
向かってくる海兵を次々と刀で倒しながら、サーヤはエースと過ごした日々を思い出した。
「わたしね、両親に捨てられたの」
暗い夜、2番隊が非番になった時の話だ。たわいもない話をしていた時に、ふとサーヤが言い出した。
「……そうなのか?」
「うん」
船の柵の上に顔を乗せ、黒く染まっている海を見つめる。
「生まれたばかりの時、育てられないから捨てられたって孤児院のおばさんに聞いた」
彼女の後ろ姿を見つめて、エースは目を細めた。
「でもね、それでよかったの」
くるりと勢いよく後ろを振り向き、にこりと微笑む。
「結果的に、この海賊団に拾ってもらって……“お父さん”ができた。“兄弟”もできた。“家族”もできた」
ー幼い頃に欲しいと思っていた人の温もり……。
「わたしは今、すっごく幸せなの」
ーー一人ぼっちだった少女は大切な仲間と出会い、幸せになった。
「あなたは?」
「え……」
エースはキョトンとした。
「あなたの両親も何か事情があるみたいだけど……」
「……」
エースは黙ってしまった。
(おれの両親は……)
ー海賊王とその妻。そして、おれは鬼の血を引く子。
「……」
その様子を見て、サーヤはくすりと笑った。