第10章 〈ロー〉感情の読めない人だから
「船長」
わたしは1番奥にある船長の部屋の扉を叩いた。
「アリスです。入ってもいいですか?」
「ダメだ」
「……」
ー完全に拗ねてる。ーー声を聞いてそう思った。
「……船長……」
ーー24歳にもなる男がこの有様だ。本当によくわからない。
「船長、気分を悪くさせてしまってすみませんでした。しばらく話しかけません。失礼します」
何をして無駄だと思い、わたしはくるりと後ろを向き、ベポの元へ戻ろうとした。しかし……。
ガチャッ
後ろで扉が開いた音がした。そう思った瞬間、お姫様抱っこをされて部屋の中にあるベッドの上へ投げ飛ばされた。
「痛ッ……」
腰を思いっきり打った。投げ飛ばした犯人を睨もうとすると、肩を押されてベッドに沈められる。
「?」
顎髭のあるクマの酷い顔が見える。
「……ダメだ」
形の良い唇が動いた。
「……え?」
「アリス」
少し寂しそうに細めた目を向けて、船長はわたしの肩に顔を埋めた。
「せ、船長……!」
首元に髭が当たってくすぐったい。
「おれに……」
低い心地の良い声が耳元に響く。
「おれに拾われて……嫌だったか?」
「……え……」
顔は見えない。彼が何を思っているのかもわからない。でも、その声は……とても寂しそうで辛そうだった。