第2章 本当の赤司征十郎
「ですが、怖くなんてありませんでした」
「…!」
「あんな根も葉もない噂を信じて、
実際のあなたに触れもしないで
勝手にイメージを作り出していました
でも、間違いでした」
「…………」
「…桃井さんや火神さん達、テツヤさんから、
あなたのことを少しだけ聞いて
実際にあなたに接して
…まだ知り合ったばかりですけれど、
でも…」
私は赤司さんを真っ直ぐに見つめた
よくわからないけれど
目の前のこのひとに、悲しそうな顔をさせたくなくて
私はいつの間にか必死になっていた
「でも、怖いだなんて思っていません」
「名前、」
「…というか、怖いと思っているなら
こんな風に寄りかかったりなんかしません」
真っ直ぐに見つめて真っ直ぐに本心を伝えると、赤司さんは少しだけ目を見開いてから
「……ありがとう」
静かにそう言って
すごくすごく、嬉しそうに笑った
「君は肝が据わってるな」
「そんなことありません」
「そんなことあるさ」
それからしばらくの間、蛍もいなくなった湖で赤司さんと2人他愛のない話をした
それでも、やっぱり私を呼んだ理由は絶対に話してはくれなかったけれど
赤司さんの言う通り、時間はいくらでもある
ゆっくり、自分のペースでやっていけばいい
そう思ったら、知らぬ間に焦っていた気持ちや戸惑いを感じていたのが綺麗さっぱりなくなっていた
その日から、私と赤司さんの間には柔らかくて心地良い空気が流れ始めた
穏やかな雰囲気に、私はいつしか「殺される」なんて考えを全くしなくなっていた
赤司さんも、私の周りの環境にそれまで以上に気を遣ってくれたし
それでも時々、「後悔していないか」と不安げに聞いてくる時はあったけれど
私はそのたびに「していない」と答えては
笑ってみせた
でも、赤司さんが私を気遣ってくれるのと同時に、何だか申し訳ない気持ちが積もっていった
勿論、それを赤司さんに言ったら
「気にしなくていい」と言われたけれど
それでは私の気が済まない
何かさせて欲しい、
赤司さんになら血をあげてもいい、と
思い始めていた矢先だった
月のない朔の日の真夜中、
赤司さんは初めて私を部屋に呼んだ