第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
とにかく、それなりに充実した日々の中で
彼女の家に行くのがいつの間にか日課になってしまっていた
でも困ったこともあった
彼女と出会ってから、俺は他の人間の血を吸わなくなっていた
…正確には、吸えなくなっていたのだ
彼女の血が美味しすぎたせいで、他の人間の血がそれまで以上に不味く感じられてしまうのだ
どろどろで、生臭い
簡単にいえば、泥水みたいに感じられた
どう試みても飲むことができず、
俺は何日間も血を飲まなかった
だが、そうといっても彼女の血を吸いたいとも思わなかった
本能がその血を求めたことはもちろん何度もあったが、その度に俺は自分の中の凶暴な猛獣を必死に宥めすかした
当然、次第にやつれていく俺を見て彼女も心配していたし、血を飲んでくれとも言われた
だが俺は何故か「いらない」と言っていた
その時は理由が何故か分からなかったが
たぶんその子を殺したくなかったんだろう
あの時は奇跡的に死ななかっただけで
次に吸ったら今度こそ死んでしまうに違いない
自分の中で勝手にそう決め付けて、
俺は彼女からの吸血を拒み続けた
だが俺は吸血鬼で、血がないと生きられない
随分と長い間血無しのままだったせいか、ある日俺は彼女の家の庭先でぶっ倒れてしまったことがある
その時の彼女の慌てっぷりは本当に面白かった
「大丈夫ですか!?やっぱり血を…っ!」
そう言って、その時に着ていた服の襟元を思い切り肌蹴させたのだ
……下着の肩紐が見えるのも気にしないで、だ
そして、そんなとんでもない姿の娘を発見した母親が慌てて駆けてきて
「自分が女の子だと自覚しなさい」と怒られながらも取り押さえられていた
その頃からだったな
当時俺とそこそこ気の合う真太郎という男の知り合いの魔法使いに、血の代わりになる薬を作ってもらうようになったのは
確か最初はワインではなく
アセロラジュースだった気がする
とにかく、その薬のおかげで何とか血を飲まずとも生きていられた