第1章 Ⅰ おかえり
ある日の放課後
俺はいつものようにプールへと向かった 、が・・・
プールサイドに誰か人影が見えた
シルエットの大きさからして真琴じゃない
そのシルエットはどこか悲しそうにプールの水を見つめていた
「藤木・・・?」
「七・・・瀬・・・くん?」
そのシルエットの正体は藤木だった
「逃げてきちゃった」
隣に座った藤木が口を開いた
「先生にね…言われたの。『お前の実力は認めるがお前には勝ちたいっていう意思が見えない』って。私はただ…トランペットを楽しく吹きたいだけなのにね…。それだけじゃ、駄目なのかな…」
俺と同じだ
結果なんてどうでもいい。タイムなんかどうでもいい。
俺はただ水を感じていたいだけなのに周りの人間はすぐに結果を求める。
それがふいに誰かを傷つけてしまうのであれば、俺はそんなものはいらない。
だから俺は競泳をやめた。
藤木もいま俺と同じことを思っている
「それでいいと思う。」
「…え?」
藤木が俺を見つめた
「俺も…藤木と同じことを思ったことある。結果なんてそのついでだって思ってた。」
「七瀬くん…」
「俺は藤木のトランペット好きだけどな…、その…楽しそうに吹いてるなって…」
「………えっ///」
「あ・・・いや、だから、その・・・自信持てよ・・・。俺、毎日聞いてるから…//」
「・・・うん!ありがとう。」
藤木はニコッと笑って立ち上がった
彼女の姿にもう迷いはなかった
あたし、がんばってみる!と言って彼女はプールサイドを後にした
俺…力になれたのかな
でも、藤木の笑顔が戻って良かった。