【CDC企画】Pink Heart Balloonをあなたに
第1章 【流川楓】 君に出会ったその日から
「おめーのママは、オレにとって初めての女だった」
「・・・・・・・・・・・・」
「ガキの頃に親父からバスケットボールを買ってもらって、オレの人生は決まったよーなもん」
朝、目覚めるとオレンジ色のボールが枕元に置いてあった。
流川が、もみじと同じぐらいの年齢の時だ。
「バスケを好きになって、誰よりも上手くなりてーって思って練習した。試合で負ければ、悔しくて練習した。自分が勝ちてーから、練習した」
母親にそっくりなもみじの髪に顔を埋める。
ミルクのような甘い香りがほんのりとした。
「ある日、ママが応援に来てくれた試合でオレは負けた。悲しそーなアイツの顔を見た時、初めて思った」
加州のために勝ちたい。
そのため、今まで以上に練習をする。
「バスケに出会って初めて、自分のためじゃなく人のために勝ちてーと思った。それがママだった」
「・・・じゃあ、やっぱりもみじよりもママが好きなんだね」
「そうは言ってねー」
流川は左腕で愛娘の体重を支えながら、右手で涙と鼻水を拭ってやる。
この柔らかい肌に初めて触れた日を、今でも昨日のことのように思い出せる。
「ママがもみじを産んだ日・・・」
夜中に加州が産気づくと、流川は一睡もせずに何時間もそばにいた。
不安がる妻の腰を摩り、手をずっと握っていた。
「おめーが生まれたのは明け方だった。オレがいつもバスケの練習に行く時間だ」
でも、目の前の小さな命からどうしても離れられなかった。
この先の生涯、全てを懸けてコイツを守る。
シワシワの小さな、小さな手。
顔の造りは自分に、目は母親にそっくりな愛娘を呆れるほどずっと眺めていることができた。