【CDC企画】Pink Heart Balloonをあなたに
第2章 【阿散井恋次】 野良犬の願い
「思い残すことはありません。成仏させてください」
「・・・ああ」
バレンタインの日に、手作りのチョコレートを食べてもらえた。
好きな人には想いが伝わらなかったけれど、そんなことが小さく思えるくらい心が穏やかだ。
恋次が刀に手をかけた、その時。
「ひとつだけお願いがあります」
「何だ?」
「そのリボン、持っていってもよろしいでしょうか?」
恋次が買った、この赤いリボンのことか。
尸魂界では魂魄はみんな着物姿となるが、これくらいなら現世から持っていくことが許されるかもしれない。
たとえそうでなくても、自分が護廷十三隊席官の権力を振りかざせば良いだろう。
「何故だ?」
「恋次さんのことを忘れないように」
成仏したら記憶がなくなるかもしれない。
でも、このリボンを見たら貴方を思い出すだろう。
「ああ・・・忘れんじゃねぇぞ。まあ、どうせ向こうでまた会えるだろうしな」
「はい」
「オメーが流魂街のどこに飛ばされようが、必ず会いに行ってやるからな」
ニッと笑い、刀を抜く。
その瞬間、川辺で一人座っている加州の姿を思い出す。
放っておけなかった。
その背中を抱きしめてやりたかった。
死神として、地縛霊になりつつある加州をすぐにでも成仏させるべきだった。
しかし、それができなかったのは・・・
この世で加州の笑顔を見たいと、心から思ったから。