【CDC企画】Pink Heart Balloonをあなたに
第2章 【阿散井恋次】 野良犬の願い
口の中に放り込む、トリュフ。
それはゴロンといびつな形で、舌の上でなかなか溶けてくれない。
「・・・苦い」
涙がポロポロと出てくる。
すると、恋次は優しく加州の頭を抱き寄せると、その厚い胸に押し当てた。
「バーカ」
大きな優しい手。
揺れる髪をゆっくりと撫でる。
「これ以上ねぇってくらい、甘ぇよ」
その声はとても温かいのに、切ない。
恋次の想いが込められていた。
「・・・恋次さん」
「ん?」
「私には・・・行くべきところがあるんですよね」
その瞬間、恋次の瞳が大きく開いた。
加州の手にある、ハート形の風船も大きく揺れる。
「お前・・・気づいていたのか?」
「なんとなく・・・」
儚く微笑む、加州。
「恋次さんは分かってて、黙っていたんでしょう? きっと黒崎さん、ルキアさん、井上さんも・・・」
“ 俺達は見送りに行かねぇけど、頑張れよ加州! ”
何故、一護はあの時“見送り”という言葉を使った?
「私には行かなければならない所があって、恋次さんはその場所へ導いてくださる方なのではないかと」
「・・・・・・・・・・・・」
恋次はしばらく黙っていた。
しかし、そっと加州から体を離すと胸に手を当てる。
次の瞬間強い光を放ったかと思うと、それまで恋次だと“思っていた”身体がグラリと揺らぎ、うつ伏せに倒れた。
「・・・それが、貴方の本当の姿・・・」
黒い死覇装。
腰に差してある刀。
「護廷十三隊六番隊副隊長、阿散井恋次」
赤髪は頭上高くにまとめられ、剃り上げられた額には大仰な刺青。
「俺は死神だ」
驚きはなかった。
決して知っていたわけではない。
しかし、心のどこかで感じていた。