【CDC企画】Pink Heart Balloonをあなたに
第2章 【阿散井恋次】 野良犬の願い
いつの間にか夕陽は消え、街灯の灯りが目立つようになっていた。
昼間、サッカーをする高校生達の声であれだけ賑やかだった河川敷。
今はそばにある鉄橋の上を走る電車の音しかしない。
「加州」
「・・・彼女、いたんですね」
努めて明るく出そうとした声が震えている。
恋次はどんな言葉をかけてやれば良いのか分からなかった。
「チョコレート・・・無駄になっちゃったな。せっかく、ルキアさんと井上さんが手伝ってくれたのに」
袋の上にポタポタと透明な涙が落ちる。
それを見た恋次は加州の前に立つと、両手で袋を持つ手ごと包み込んだ。
「俺は、こう見えて甘いものには目がねぇ。ルキアの兄貴・・・俺の隊長は嫌いだけどな」
「恋次さん?」
涙で濡れた顔を上げると、俯いたまま優しい顔で微笑む副隊長。
「どうせ捨てちまうなら、俺が食ってやる」
加州の手を包む、節ばった恋次の手に力が込められる。
「だから・・・そんな悲しそうな顔をすんじゃねぇよ」
“まぁ、本当はタイ焼きが一番好きなんだけどな”と言って、口の端を上げた。
そんな恋次に、加州の顔にも笑みが戻る。
「このリボン・・・恋次さんの髪の色と同じですもんね」
もしかしたら、最初から貴方に食べてもらう運命だったのかもしれない。
真っ赤な髪をした、刺青だらけの優しい人。
シュルッとリボンを外し、袋を開ける。
そして恋次に向かって差し出した。
「オメーとルキアの合作じゃ、味は知れてるけどな」
「ひどい!」
もし、あの人に渡していたら、こうして笑い合うことなどできなかった。
「美味しいですか?」
「オメーも食うか?」
もし、あの人に渡していたら、こうして分け合うことなどできなかった。