【CDC企画】Pink Heart Balloonをあなたに
第2章 【阿散井恋次】 野良犬の願い
1週間後。
加州が土手に着いた時はすでに、約束の時間から2時間ほど遅れていた。
遅刻した理由は寝坊なんかじゃない。
バレンタインが近づくにつれて、気が進まなくなっていったからだ。
緊張からか動悸が激しい・・・
もしフラれたらどうしよう。
やはりこのまま引き返そうか。
今は午後12時。
いろいろ考えては何度も足を止めているうち、こんなに遅くなってしまった。
もしかしたら、もう恋次はいないかもしれない。
他人の告白のために、2時間もこんな寒い中待っているわけが・・・
「おっせーよ!!」
突然、土手の斜面から真っ赤な頭がヒョコッと飛び出てくる。
待ちくたびれて寝っ転がっていたのだろうか。
今日はニット帽は被っておらず、真っ黒な髑髏柄のバンダナを額に巻き、フードにファーがついたモスグリーンのジャケットを羽織っていた。
「テメェ・・・あと5秒待って来なかったら、迎えに行こうかと思ったところだぞ」
「ごめんなさいっ」
恋次はイライラした顔つきで、左手首に巻いてある腕時計に目を落とした。
「チッ、時間がねぇ。オラ、急ぐぞ」
「どこへ行くんですか?」
「知り合いの家だよ! ここじゃなんにもできねーだろ」
「し、知り合い?」
「チョコレートを作る材料と道具を用意してもらってる。遠慮すんな」
恋次の知り合いだなんて、不安要素しかない。
でも、どれだけガラの悪いのが出てこようが、きっと恋次ほどではないだろう。
この人は口は悪いが、悪い人ではない。
きっと大丈夫だ。
きっと・・・大丈夫だよな?
何度も自分に言い聞かせては、少し前を歩く恋次の長い赤毛を見て憂鬱になる。
首にもびっしりタトゥーが入っているのを見るに、もう全身刺青だらけなのだろう。
こんなことになるんだったら、自分で先に作ってしまえば良かった。
いや、むしろ手作りでなくたっていいんだ。
・・・もし彼が甘い物は苦手だったらどうしよう。