【CDC企画】Pink Heart Balloonをあなたに
第2章 【阿散井恋次】 野良犬の願い
あれから1週間。
おそるおそる河川敷に行ってみると、あの変人の姿がなくてホッとする。
いつものように土手に座り、サッカーをしている高校生を眺めた。
今日も貴方は友達と一緒にボールを追いかけている。
天気はくもり。
ちょっと寒いけど、貴方はやっぱり汗をかいている。
茶色い髪の毛が太陽に透け、笑うたびに白い歯が覗く。
あぁ、やっぱり好きだな・・・
と、思った時だった。
「おめー、もしかしてあん中に好きな奴でもいるのか?」
いきなり隣から聞こえてきた声に、心臓が飛び出そうになる。
いや、変な声くらいはでていたかもしれない。
おそるおそる顔をそちらに向けると、案の定、この間の変人が腰を下ろしている。
気配を消しながら近づいてきたのか、声をかけられるまでまったく気がつかなかった。
「あの・・・何か用ですか?」
やはり今日も黒のニット帽に、迷彩柄のダウンジャケット。
真っ赤なロン毛を一つに編んでいる。
それに・・・よく見たら、額だけでなく眉にも刺青が入っている。
ヤバい、ヤバい。
「用がなきゃ声をかけちゃいけねぇか?」
「いや・・・そういうわけでは・・・」
しかし、用もないのに他人に声をかける人間など、そうはいないだろう。
目付きが悪いし、身長は190センチ近くありそうだし、もう関わりたくない。
黙っていると、その変人は盛大なため息を吐いた。
「俺は、阿散井恋次だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「オイ! 初対面の奴にはまず名乗るよう、母ちゃんから教えてもらわなかったか?」
「ひっ」
片手で頭を掴まれ、強引に顔を向けさせられる。
そして、まるで飢えた野良犬のような尖った目でジーっと睨まれた。
「・・・それとも、自分の名前すら忘れたのか?」
「仁奈加州ですっ!」
すると、それまでの剣幕はどこへ消え失せたのか、恋次は二カッと笑った。
「そうか、加州か。よろしくな、加州!」
「よ・・・呼び捨て・・・」
強面の割には人懐っこい性格なのだろうか。
それまで抱いていた恐怖と嫌悪感が、少しずつ薄まっていく。