【CDC企画】Pink Heart Balloonをあなたに
第1章 【流川楓】 君に出会ったその日から
子どもができると、誰でもこんな風になるのか?
流川は愛娘の手を引きながら思った。
友人の誰よりも早く結婚した流川は、高校生の頃とのギャップに我ながら戸惑う。
両親は放任主義だったが、それも自分が男だったからだろう。
流川は頭をポリポリと掻いた。
これはいわゆる・・・
“親バカ”というやつなのかもしれない。
彩子センパイには「あんたは絶対に父親に向いてないわよ!」って言われていたけど、やっぱそうなんだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
商店街で信号待ちをしていると、ふと手を繋いでいたはずのもみじがいないことに気がついた。
辺りを見回してみると、少し離れたところでニコニコ笑っている。
「もみじ」
まったく、誰にでも愛想を振りまくのか。
我が子とは思えない人懐っこさに呆れていると、戻ってきたもみじの手に風船が無かった。
「おい、風船はどうした?」
再び手をつないで横断歩道を渡りながら聞くと、もみじはニッコリと笑みを浮かべながら嬉しそうにピョンピョンと跳ねた。
「悲しそうな顔をしていたお姉ちゃんにあげたの」
「あげた?」
「あの風船はね、もっているとえがおになれるんだよ」
何かのアニメの受け売りだろうか?
小さなこどもの話すことは、時に支離滅裂だ。
「風船をくれたおじさんが言ってたの」
「そーか」
「そしたら、パパが来てくれたの」
「そーか」
「もみじ、うれしかったよ」
零れるほどの笑顔に、流川も嬉しくなった。
いつまでこうして手を繋いで歩くことができるかは分からない。
だから、もう少しゆっくり。
ゆっくり、時間が流れて欲しい。
もみじが自分を見てくれている間に、必ずケガを完治させて選手として復帰する。
「あ・・・!」
そこを曲がれば家というところで、体を屈めながら垣根の下を覗いている人影が見えた。