【CDC企画】Pink Heart Balloonをあなたに
第1章 【流川楓】 君に出会ったその日から
「パパ、もう帰ろ」
夕陽を背に、もみじが笑う。
「ママにあいたい」
泣いてる顔もかわいいが、やっぱりコイツは笑っている方がいい。
「ママにごめんなさいする」
「そーか」
もう少しだけ娘と二人きりの時間を過ごしたい気もするが、加州はきっと今も半泣きでもみじを探しているだろう。
小さな体を地面に下ろし、手をつなぐ。
「そういや、さっきから気になっていたんだが」
「うん?」
「その風船どうした?」
ピンク色をしたハート形の風船。
家にはこんなもの無かったはずだ。
「ブランコのところでもらったの」
「もらった? 誰に」
「知らないおじさん」
「あんだと?」
無邪気な娘とは対照的に、流川の表情が変わる。
「どんなおっさんだ?」
「あのねー、がいじんで、ちっちゃくて、でもパパにそっくりだった」
「オレに?」
「うん。黒い髪の毛で、目がつりあがってた」
「・・・・・・・・・」
娘が自分に持っているイメージはそんなもんなんだろうか。
心臓に毛が生えていると言われる流川だが、さすがにショックだった。
そもそも、外人で小さいなんて、オレと真逆じゃねーか。
そんな不満を隠せない。
「いーか。知らねーヤツからモノをもらうんじゃねー」
「なんで?」
「おめーは可愛いから、さらわれるかもしれねーだろ」
「さらわれる?」
ギロリと横目で睨んでくる父親を見て、もみじは小さな手を頬に当てて考えこんだ。
それは加州が見せる仕草にそっくりで、いっそう可愛くて仕方がなくなる。
流川が表情に乏しいせいで、それがまったく周囲には伝わらないのが難点だが・・・
「分かったのか?」
「でも、優しいおじさんだったよ」
「そう見えるだけで、実際はそうじゃねーかもしれない」
“分かったな?”と無言のプレッシャーをかけてくる父に、もみじは納得いかないながらも頷いた。