第1章 人間と国とシフォンケーキ(APH/ロヴィーノ・ヴァルガス)
「せっかくのワインに失礼だろーが、こんちきしょーめ」
「あっ、でももう生地も冷めたと思うので、今からでも乾杯しますか?」
「そういう意味じゃねーの!このすっとこどっこい!」
ロヴィーノさんは、頭を抱えてソファに倒れ込みました。「なーんで俺からのプレゼントは全部、普通の使い方しねーんだよ」
「私が良いと思った使い方をしているだけです」
「いいか、良く聞け」
人差し指が、ピンと天井を指しました。「ここ、南イタリアのローマ市街地に住む女の子たちはな、ブランドものの洋服や流行りの香水は自分を着飾るために使ってんだよ。郷に入っては郷に従え」
「そんなことより、ご覧くださいロヴィーノさん」
「聞けよ」
私はシフォンケーキの型をワインボトルから外し、お皿の上で力強くその底面を叩きました。可愛らしい音と共にふわふわの生地が落ちてきます。
中央に穴の空いた、綺麗な丸みを帯びた焼き菓子。これがシフォンケーキなるものです。私はお皿ごと恭しく両手で持ち上げ、ロヴィーノさんの元へと運んであげました。
「元気な男の子ですよ」
「ケーキに性別も何もねーだろ」
「この子は男前になります。きっと」
「よし、じゃあ食うか」
「食べるですって!?」
私は慌ててお皿を背中の後ろへと隠しました。「シフォンケーキは愛でるものです!」
「へいへい、じゃあ愛でた後に食おうな」
ひらひらと片手を振るロヴィーノさんに、私はしょうがないですね、と渋々同意した後、部屋の隅に飾ってあったマンドリンを手にとって差し出しました。
「ロヴィーノさん、私はこの子とダンスを踊ります。音楽をお願いできます?」
「嫌だね。得意じゃねーから」
「じゃあ質問を変えますね」
片手にケーキを、片手に楽器を持つと、自然に口角が上がります。まさに両手に花です。
「音楽は好きですか?ロヴィーノさん」