第1章 人間と国とシフォンケーキ(APH/ロヴィーノ・ヴァルガス)
「そのパネルの生地、俺には見覚えがある」
「あぁ、これですね」
私は頷きました。そうなんです。これもロヴィーノさんからの貰い物でした。「デザインがとっても気に入っているんです。ありがとうございました」
「じゃなくて、俺がプレゼントしたときは洋服だった!ミモレ丈のスカートだっただろ!?」
「はい。とっても素敵な柄だったので、ハサミで切って、作ってみました」
「ハサミで切って!?」
「こっちの方が毎日見れて、毎日ロヴィーノさんのことを思い出せます」
にっこり笑うと、ロヴィーノさんは一瞬きょとんとしたあと、もごもごと下を向きました。
「……一流ブランドだったんだぞ」
「はい」
「お前が今日買ってきた、オレンジ100個分よりも高い金払ったんだぞ」
「存じています。私にも分かるくらいの上等な生地です。だからほら、今は私の生活の中にすっかり溶け込んでいるんです。優秀ですよ、この子は」
パネルに向かって両手を広げたのですが、何やらじっとりとした視線は絡み付いたまま剥がれません。
「去年の誕生日にあげた香水は?」
「よく使っています」
「何に?」
「……トイレの芳香剤に」
「はぁ?」
「あっ、あと掃除機のフィルターにも吹きかけます」
「なんで自分に使わないんだよ!」
こんちくしょーめ!とロヴィーノさんは子供のように地団駄を踏みました。「お前に似合うと思ったからプレゼントしてるのに!」
「すみません」
「先週あげたワインは?」
「あ!それでしたら、ちょうど活躍しているところです!」
あちらで、と私はキッチンのカウンターへ指先を向けました。直後に、はああぁ!?と今日一番の大声が家の中を駆け抜けていきました。
「何なんだよ!あれ」
「ちょうどぴったりだったので……」
駄目でしたか?と、ロヴィーノさんを見上げてから、私はすみませんと頭を下げました。
カウンターの端に控えめに立つワインのボトル。私はそれを、今朝焼き上がったシフォンケーキを冷ます台に使っていたのです。ケーキを型ごとひっくり返して、真ん中の穴の部分をボトルの口に差し込んでおく。そうやって冷やしておくと、ふわふわの食感になるのだと雑誌で紹介されていたからです。