第4章 彼女と3バカと鉄板焼き(ワールドトリガー/出水・米屋・緑川)
「”セ・ラ・ヴィ”だよ、なまえちゃん先輩」
赤信号を待ってる間、ふいに駿が口を開いた。”これが人生である”というフランス語なのだそうだ。
「悪いことがあった時に呟くんだよ」
そう言って得意気に教えてくれた。
人生は不幸と偶然の連続ばかり。諦めなきゃいけないことなんて沢山ある。だからいちいち落ち込んでなんていられない。人生はこんなもの、って一言呟くだけでいい。
「駿は素敵な言葉を知ってるね」
素直に誉めると、「覚えた言葉はすぐ使いたがる」「中房だなあ」と17歳共が茶化し始めた。大人げない。冷たい視線を送ってやると、「まぁでも確かに、」と米屋が口の両端をつり上げた。
「運の悪さを嘆くのは時間の無駄だな。ラッキーもアンラッキーも予測できない。水戸黄門も言ってただろ?人生楽ありゃ苦もあるさ、って」
「それ黄門様の台詞じゃないよね。ただのOPテーマだよね」
「人生山あり谷ありだもんな」
出水もすかさず乗っかってくる。「女子のブラとおんなじ」
「さいってー」
「は?なまえ、お前レッド・ツェッペリン知らねーの?」
「そっちじゃねーだろ、バカ」
米屋が出水に突っ込んだ直後、信号が青に変わった。
横断歩道を、4人が連なって歩いていく。
ふいに出水が口ずさむ。誰でも知ってる洋楽曲。米屋も、駿も、そしてなまえも、つられてハミングを重ねていった。
「人生は長い」
米屋が呟く。そう!と出水。「人生はまだまだ続く」
「今日チョコと縁がなかったことくらい、どうってことないよ、なまえ先輩」
3人がいっせいにげらげら笑った。なまえも思わず微笑んでしまう。
セ・ラ・ヴィ。人生はこんなもの、か。
夕暮れに伸びる4つの影を見つめていると、なんとなく、昨日チョコを焦がして正解だったのではないかと思えてしまった。