第4章 彼女と3バカと鉄板焼き(ワールドトリガー/出水・米屋・緑川)
ざっくりまとめると、米屋らの主張は以下の通りだ。
みょうじなまえは確かにチョコをあげると言っていた。だからそれを楽しみにして今日を迎えた。しかし約束は果たされなかった。精神的苦痛を与えられたので、償いとして代わりとなるスイーツを要求する。以上。
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「かぁーっ!次は定休日かよ!」
今日ぐらい稼げよ!と出水の突っ込みが響き渡ったのは、ちょうど5件目の店を訪れた時だった。
「なんだろ……私バレンタインの神に呪われてるのかな」
パソコンで印刷された白い張り紙。テンプレート通りの文面を前にして、なまえはがっくりと肩を落とした。
不本意とはいえ、約束を破ったのは自分の方だ。せめて3人に満足してもらおうと市内にある一押しのスイーツショップを巡って回った。しかし待っていたのは売り切れ 、行列、定休日。今のところ、無駄に体力を消費しているだけである。
「まぁ、そんな日もあるよな」
米屋が暮れ始めた空を見上げて呟いた。
「ごめーん、みんな」
「 なまえ先輩が悪いんじゃないよ 」
すかさず駿が慰めてくる。年下の男の子に気をつかってもらうなんて、余計に悲しくなってしまう。
「私って、なんかいっつもこうなんだよね」
歩きながらため息が出た。他人よりも運と頭と要領が悪いことは、小学生の頃から自覚していることだった。
クレヨンは線からはみ出る。給食のおつゆはひっくり返すし、模造紙に書いた文字は斜めに曲がる。夏休みの工作は提出前に壊してしまうし、リコーダーの低いドの音は綺麗に吹けない。
他の子たちは簡単にできることでも、自分にはできないことがたくさんあった。
高校生になった今でもそれは変わらない。ボーダーに入隊できたのは親譲りの豊富なトリオン量のおかげだけ。出水や米屋とほぼ同時期に入隊したのに、順調に昇格を果たす彼らと違ってこちらはずっとB級止まり。後輩の駿には追い抜かれるし、同い歳で同じ女子の小南桐絵と並べられると余計に悲惨だ。
あの子みたいに可愛く、強くなりたいと何度願ったことだろうか。
願っても、成績は一向に上がらず手作りチョコも作れない。3バカには騙されオモチャにされ続け、自分の中で唯一自慢できるのは逃げ足の速さだけではないかと嘆かずにはいられない。