第4章 彼女と3バカと鉄板焼き(ワールドトリガー/出水・米屋・緑川)
「よねやん先輩、ナーイスキャッチ!」
「駿と出水の完璧な誘導のおかげだな」
「だろ?っつーか、まんま想定通りのルートで走ってくれてマジ楽だったわー」
ありがとな?と出水はなまえの頭をぽんと叩いた。駿は連携が上手く機能したことがよほど嬉しかったのか、右手と左手を交互に上空に突き出す謎の舞を披露している。
「さて、どうします?」
米屋も楽しそうになまえに顔を近づけた。「素直に負けを認めて、俺たちに献上します?」
「何を?」と彼女がしらばっくれると、「おやおやぁ?」と出水がとぼけた。
「俺たちに向かって、自信たっぷりに”最高のバレンタインデーをお見舞いしてやる。首洗って待っとけ”っつってたのは、どこのどいつだったかなあ?」
「だって出水が、”お前の手作りチョコなんて想像できんわ”って言ったからだもん」
なまえは頬を膨らませた。
あれは1週間程前のこと。不器用だの料理下手だの茶化されて、売り言葉に買い言葉を続けていたら、いつの間にか3人に手作りチョコをプレゼントする宣言をしていたのである。つまりこれも巧みな誘導。まんまと口車に乗せられたのだ。
「で?」
米屋が尋ねた。「今日1日こそこそ隠れ回って、挙げ句の果てに逃げ帰ろうとしたってことは、作ってねーの?」
「作ったよ。まぁ、作ったっていうか、なんというか……」
歯切れが悪い。
「正直に話せよ」
「ほら、昨日は13日の金曜日だったから」
「正直に話せって、怒らないから」
「姿の見えない悪魔に邪魔されまして……」
「先輩、言い訳は見苦しいよ」
「………黒焦げになりました」
とうとう白状してしまった。そう、今年は張り切ってお菓子を作った。そして張り切りすぎてチョコから隕石を錬成したのだ。
「ま、んなことだろーと思ったよ」
バカにする風でもなく、出水はさらりと言い放った。「というわけで、プランBだな」
「ん?」
「代替案です」
その言葉の意味を理解するより前に、なまえの両腕はホールドされた。右には弾バカ、左は槍バカ。
「何が始まるんです?」
「デートだよ、先輩」
後ろからは、迅バカの声がする。
「4人でデート?」
「当たり前だろ」
米屋が出水の肩に手を回す。「俺たちの期待を裏切った罪は重いんですよ、お嬢さん」