第1章 人間と国とシフォンケーキ(APH/ロヴィーノ・ヴァルガス)
「ななな、なんでお前がここに居んだよ!?」
「ここは私のおうちです」
「そういう意味じゃねーよこんにゃろ!いつもこの時間は家に居るんじゃ……!?」
「市場に出かけていたんです。ほら、」
抱えていた紙袋を見せてあげました。カサリと乾いた音をたてて、オレンジの甘酸っぱい香りが弾けます。けれどロヴィーノさんは、オリーブ色の綺麗な瞳をうろうろさせるだけでした。
「何か私にご用でしたか?」
尋ねると、ロヴィーノさんは一瞬息を呑んだ後、右手を私に向かって突き出しました。上品にラッピングされた薔薇たちが、ぶっきらぼうな動作によって大きく揺れ動きます。
「サプライズで渡そうと思ったのによ……これじゃ格好つかねーじゃねーか」
整った唇もつんと突き出しています。私は、えっ、と小さく声を上げてしまいました。
「私にくださるんですか?」
「趣味じゃねーならあげねーかんな」
「いいえ、お花は大好きです」
ありがとうございます、と言って受け取ると、ロヴィーノさんはそっぽを向いてしまいました。耳の先まで真っ赤になっているのが見えて、ぽこぽこと音まで聞こえてきそうです。
「でも、どうして急に薔薇なんか?」
「急でもなんでもねーだろこのやろ。今日は何の日だと思ってんだよ」
「今日?」
その質問に、私は首をかしげて斜め上を見ました。薄い雲の隙間から、白い空が覗いています。「一昨日はアントーニョさんの誕生日でした」
「だな」
「その前は本田さんの誕生日」
「日本の建国記念日だったな」
「楽しかったですよねぇ。アントーニョさん、とっても楽器の演奏がお上手で」
「んな話はどーでもいいだろ!」
まるでトマトみたいに真っ赤になって、ロヴィーノさんは両手の拳をぶんぶんと振りました。その様子がとっても可愛らしくて、思わず笑みがこぼれてしまいます。なに笑ってんだよ、と拗ねられるその前に、私は今日の日付を口に出して言いました。
「今日は、2月のじゅうよん……あ!」
両手を打つと、ぽんっと音が鳴りました。「うまい棒の日ですね?」
そこまで言われてようやく気がついたのか、ロヴィーノさんが「なまえ……!」とわなわなと唇を震わせました。「お前、わざとトボケてんだろ!?」
「えへ、バレました?」
「ちぎー!お前後で覚えてろよ!バカヤロー!!」