第4章 彼女と3バカと鉄板焼き(ワールドトリガー/出水・米屋・緑川)
「うわ、追いかけてきた」
走りながら後方確認。緑川駿に出水公平。よりによって、一番見つかりたくない2人に見つかってしまった。というか、あれは自分のことを待ち伏せしていた。
裏手から逃げることを読まれていたのか。舌打ちが出る。だけど馴れた土地での追いかけっこならこちらの方に分があるはずだ。
最短距離で本部の敷地内を突っ切って、全速力で助走、踏み切り、そして跳躍。自分より遥かに背の高いフェンスの壁に飛びついた。
「ひぇー、マジで越えんのかよ!」
背後から、出水の感嘆の声があがった。「さすがだな、逃げ足No.1スナイパー」
「あれぐらいの高さなら、俺だって本気だせばいけますよ」
「張り合うなっての」
負けず嫌いな駿とのやり取りも聞こえてくる。しかし敢えて気にしない。助走の勢いに乗っかったまま、フェンスの天辺に手をかけた。そのまま身体を持ち上げ足先を乗せ、後ろに蹴り出して飛び越える。
よし、これで完全に振り切った———
「———と、思うじゃん?」
「へっ?」
高いフェンスから飛び降りた先。その真下に、またもや見知った人物が立っていた。17歳の、高校2年の米屋陽介。カチューシャで前髪を上げたヘアスタイルが特徴の、好戦的な槍バカ野郎。
そんな彼が、切れ長の瞳をさらに細めて、両腕を広げて待っていた。完全に読まれていたのだ。
「らっしゃーい」
「えっ、やだやだやだ!!」
既に空中に飛び出してしまっていたなまえには為す術がない。着地点に彼がいる。そのまま抱きしめられる形で、その腕の中へダイブした。
「三輪隊米屋、みょうじなまえを確保しましたー」
「やだっ、離して!」
「離さねーよ」
一度捕まってしまっては男女の力の差には勝てない。じたばた足掻いたところで押さえつけてくる腕はびくともしない。かくして、なまえの逃亡作戦は失敗に終わったのだった。