第4章 彼女と3バカと鉄板焼き(ワールドトリガー/出水・米屋・緑川)
2/14 p.m. 3:00 ボーダー本部基地裏にて
みょうじなまえは、物陰に隠れて周囲を窺っていた。
人影なし、物音なし、不審物なし。
日陰になった基地の裏側。怪しい気配は何一つない。唯一の不審者を挙げるとするなら、おそらく自分1人である。
———よし、イケる!
意を決して地面を蹴った。バネのように飛び出して、裏門の外目指して駆ける。足の速さには自信があった。本部の敷地の外へと出れば、誰も追いかけては来ないだろう。
うまく逃げきれた。
と、一瞬でも思ってしまったのがマズかった。
「なまえ先輩、めーっけ!」
天からの声。 走りながら頭上を仰いで、マジで!?とつんのめりそうになってしまった。
いつから登っていたのだろうか。門の脇に生えている大きな木の上で、緑川駿が器用に仁王立ちになっていたのだ。
「観念しなよ!なまえちゃん先輩!」
にっと笑って見下ろしてくる癖毛の可愛い14歳。犬、わんこ、もしくは犬っころと称されるほど、人懐っこい性格の中学生。しかしその実、A級4位の隊に所属する攻撃手であり、戦闘センスは高校生大学生と肩を並べるほどである。年齢故か、やや常識に欠けているのが玉に瑕。
「目上の人には、正しい敬語を使いなさい!」
なまえは左足でブレーキをかけながら説教をした。彼に捕まるその前に、右方向直角に曲がってそのまま走る。
「いずみん先輩!」駿が叫んだ。
なまえの進行方向の先、ちょうど正面の草の影から、「待ってましたぁ!」と男が1人飛び出してきた。色素の薄い髪の毛に、分けた前髪可愛い猫目。
「げぇっ、出水もいるの!?」
相手の名前が口から飛び出すが身体は慣性の法則により止まらない。腕を掴まれそうになる寸でのところでしゃがみ込み、そのまま彼の脇をすり抜けた。
「待ちやがれこのじゃじゃ馬ガール!」
口は悪いが顔は決して悪くない出水公平。17歳の高校生。派手な戦闘スタイルを好むビジュアル担当の天才型シューター。頭は良いが、火力重視の特攻おバカ。