第3章 双子の兄妹とフォンダンショコラ(ハイキュー!!/赤葦京治)
「京治、」
ベッドが揺れた。
なに?と尋ねる前に背中に重みが加わって、冷たい感触がするりと首筋を撫で上げていった。
「京治、鳥肌立ってる」
「今は駄目だって」
「後ならいいの?」
悪戯っぽく囁く声に、振り返ってわざと睨む。わ、怖い。となまえはおどけて肩を竦めて、俺の手からスケッチブックを奪い取っていった。
なまえと俺は双子の兄妹。問題点はそれだけ。二卵性だからDNAも違うし、血液型も違えば性別も違う。”2人で1人”みたいな特別な感覚は昔から全くなかったし、きちんとお互い別の個体だと認識していた。だから余計に、目に見えてくる男女の差を意識せずにはいられなかった。
「なーんでよりによって今日だったんだろ」
テーブルに座ってスケッチブックに落書きしながら、なまえが不思議そうに呟いた。「先週まであいつ、チョコくれチョコくれって煩かったのに」
「せっかく夜更かしして作ったのにな」
描かれていく謎のゆるキャラを見つめながら慰めると、うん、となまえは頷いた。
「いらないって言われた上に、別れよう、だって」
そう言ってなまえは、落ちてくる長い髪の毛を耳にかけた。学校では1つにしばっているから、家でしか見れない仕草。少し眠そうな瞳とまつげ、と、よれたジャージから露出した白い足首。
無防備、と頭に浮かぶ。だけどわざと口には出さない。こいつの弱い部分を見れる男は、これから先も、俺1人だけで十分だと思っているから。
「やっぱ男の子ってよくわかんない」
「じゃあ告白されても、付き合わなければよかったんじゃない」
「断る理由もなかったからなぁ」
あはは、となまえは緩く笑った。この気の抜けたような表情も、家の外では全く見せない。
なまえは学校では、親の前では、演技をしている。それは俺もおんなじだ。他人が求める自分を見せるように意識している。そうすると、世の中いろいろと上手くいくから。
だけどお互いだけは知っている。俺たち2人は、外はかっちりしてるけど、中身はけっこうずぼら。そして周りのことには無関心。