第2章 受験生と生チョコトリュフ(ハイキュー!!/岩泉一)
———言ってしまおう。
膝の上に置いた両手を握りしめた。
言ったほうがきっといい。そして言うならきっと、今しかない。
モダン・ジャズの帝王、魔術師、あの天才トランペット奏者も言ってたじゃないか。
”終わってしまう前に、終われ。” と。
「言っとくが、遠距離続ける自信がないから別れたいとか言うのは無しな」
「へっ?」
突然の言葉に驚いて振り返ると、岩泉はきょとんとした顔をした。
「……んだよ、そういう話じゃないのか?」
「そうだけど……よくわかったね」
「直感」
ほら、と一粒チョコを差し出された。口を開けると、放り込まれる甘い味。
「お前は空腹になるとネガティブになる」
「………ごめん」
「謝るな」
そう言った岩泉は、無言で残りのチョコを口に運んでいった。その横顔を見ながら、あまりのあっけなさに呆れてしまった。
好きなのに別れる理由がどこにあるのか。きっとそれが彼の言い分なのだろう。私よりもずっと、こいつの思考はシンプルなんだ。
「あのさ、岩泉」
「ん?」
「もしもの話なんだけど、」
軽く鼻をすすって、口元を覆い隠すようにマフラーをずり上げた。「向こうの大学入って、私より好きな人ができたらどうする?」
「え」
岩泉は面食らったような顔をした。でもそれも一瞬のことだった。「その時は、お前と別れる」
「……………だよねぇ」
あーあ、と私は夜空を仰いだ。「イワイズミハジメって、そういう人間なんだよねぇ」
「はぁ?」
「こういう時はね、嘘でもいいから”お前以外の女なんて好きにならない”って言うべきなんだよ」
「先のことなんて分かんねぇだろ。それに、他に好きな人ができたらどうするって聞いてきたのはそっちだろ」
「そうだよねぇ。そういう男だもんね。わかってたよ」
自分の彼氏ながら単純すぎやしないかと笑ってしまう。きっと彼の幼馴染みの及川ならば、私の望む言葉を口にしてくれたことだろう。岩泉は、変に勘が鋭い割りに、女の子の心を読むのは得意じゃないのだ。
「…………嘘を吐いて欲しかったのか?」
彼の声が少し震えていた。顔は強張っているけれど、目だけは真っ直ぐに私のことを見つめてくれてる。
「ううん、逆に安心した」