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[CDC]23の1-1

第2章 受験生と生チョコトリュフ(ハイキュー!!/岩泉一)



先ほど雪に突っ込んだせいで、彼のコートは粉砂糖を振るったクッキーみたいに白くなっている。ツンツンした髪にかかったままの雪を払ってあげて、そのまま頬に手を滑らせると、彼は気持ち良さそうに目を閉じた。


「あんた、浮気できない性格なんだね」


思い出したよ。私はこいつの、この誠実なところに惹かれたんだった。どうして忘れていたんだろう。


自分の夢は諦めない。他人のために自分を殺すなんてことはしない。いつも真っ直ぐ生きているから、私への感情もぶれることはない。岩泉にとって、物理的な距離は壁ではないのだ。


「今の時代、ネット環境さえあればいくらでも連絡できるだろ。時間がかかるだけで、会えないわけでもないんだし……」


そう言って彼は口をつぐんだ。後ろからバスの停車音がする。振り返ると、赤信号の下でオレンジ色のランプが点滅していた。「じゃあな」と、彼が立ち上がる。




「気ぃ付けて」

「いつも一緒に待ってくれてありがとう」

「おう」


彼に向かって右手を振ると、ぎこちなく笑みを返された。

だけどすぐに、「あー、くっそ……」と腰を引き寄せられる。



「ちょ、岩泉……」

「悪い」

「待って、ここ外……っ」

「抵抗すんな。早くしないとバスがくる」


その言葉で動くのを止めた。直後に唇を奪われる。

触れるだけのキスを1回。少し深めのキスを1回。一度離れたけれど名残惜しくて、また触れるだけのキスを1回。




「チョコ、旨かった。ありがとう」

「うん」

「来年もくれ」

「……うん」

「泣くな」

「うん」

「絶対泣くなよ」

「うん、大丈夫」


頷いた直後、背後でバスが停車した。排気ガスの臭いと、空気を吐き出す大きい音。


「じゃあな、なまえ。また明日」

「うん、バイバイ」


触れていた身体が離れていく。腕が、指先が、視線が、距離が。


バスのステップに立つと直ぐにドアは閉まった。余韻なんて掻き消すように、重そうに鉄の塊は走り出す。窓から見える恋人の姿が、どんどん小さくなって消えて行く。


来月からは、”また明日”と言えない関係になってしまうのだ。でも大丈夫。



「私たちなら平気だよ」



小声で唱える。黒くなった窓ガラスの向こうに浮かぶ、泣きそうな顔の自分と目が合った。










-おしまい-
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