第2章 受験生と生チョコトリュフ(ハイキュー!!/岩泉一)
「引っ掛かったな、おバカさんめ!」
言うが早いが、私は起き上がって駆け出した。直後に「このやろ!」と叫び声が聞こえてくる。耳の横を白い雪玉が掠めていった。
「待ちやがれなまえ!」
「あはははは!」
夜の中を走って逃げた。雪の照り返しが眩しい夜。大爆笑が止まらない。
「あーー!みんな死ねばいいのに!!!」
人影がないのをいいことに、息を切らしながら全力で叫んでやった。
「もう!解放されたい!!!受かりたい!!私ならできるよ!最高!天才!でもあと10日!もう死にた…………おわっ!」
地面を蹴ろうとしたら足が滑った。縁起でもない。
「っぶねぇ!」
いつのまに追いついたのか、岩泉が後ろから支えてくれた。首を反らすと、弾んだ白い息の向こうに見慣れたいつもの彼の顔。鼻の奥がツンとしてくる。
「大丈夫か?」
「うん……」
「気を付けろよ………って、お前………」
なに泣いてんだよ。と困惑した表情をされてしまった。でもそれは一瞬だけで、すぐに彼の目元と口元がキリッと引き締まったかと思ったら、私の身体は抱き締められた。それも相当強い力で。
「情けねぇ顔すんな」
耳元で低い声がする。
「うん」
彼の鼻先が髪の毛に当たる。
「そんな顔されると、どうしていいかわからなくなる」
「…………ごめん、もう平気」
ぎゅうぎゅうと音がしそうなくらい抱き締められると、身体の中の煙が夜の闇に溶けだしていって、代わりに少し、心臓の音が煩くなる。
「岩泉、」
「ん?」
「ここ、なんか寂しい。空っぽみたい」
彼の手をとって、自分の胸の下に導いた。心臓よりも、手のひら1つ分くらい下の場所。
「ここは何?」
「ここは……」
ふっ、と岩泉が笑った。「ここは、胃腸だな」
「そっか、胃かぁ」
私も一緒に笑ってしまった。「じゃあお腹が空いてるだけなのか」