第2章 受験生と生チョコトリュフ(ハイキュー!!/岩泉一)
前期試験受験日の先。その先の人生があるなんて、今は全く想像できない。高校の卒業式があり、合格発表があり、もしかしたら後期試験を受けて、そして大学の入学式を迎える未来が想像できない。何度イメージしようとしても、間近に迫った受験の日。そこから先の道は真っ暗で、今立っている場所からでは何も見えない。
「あー!受験なんて早く終わって!いや駄目!まだ来ないで来ないで!もう少しだけ勉強させて!」
「お前、ストレスでテンションおかしいな」
「いつもよりたくさん喋っちゃうのよ」
受かるのかなぁ、と答えの出ない問いを繰り返す。「もし落ちたらさ、私、浪人して岩泉と同じ大学目指そうかなぁ。だってさ、そしたらさ、」
「それ以上言ったら怒るぞ」
「……………うん、ごめん」
口を閉じたら、2人の間に沈黙が訪れる。雪を踏みしめる音だけが、しんとした冬の夜に響いていた。
居たたまれなくなって、岩泉に軽く肩をぶつける。無言のまま同じことを返される。体格差を考えて欲しい。私は少しよろけてしまって、気にせず歩いていく彼にむっとしたので、助走をつけて思いきりタックルをした。
しかし読まれていたのか、岩泉は素早く私の両肩を掴むと、ちょうど道の横に積もっていた雪の山に向かって私の身体をぶん投げた。
「ぎゃ!!!」
見事に背中からダイブ。痛みはなかった。でもその代わり、すっごく冷たい。
「何これ背中に雪が入った!バカ泉!バカバカバカ!」
「ぶっ!」
腕を振り上げて叫ぶ私を見て岩泉が吹き出した。今日初めて見る彼の笑顔。私もつられて笑ってしまう。脱力して空を見る。星が綺麗だ。積もりたての柔らかい雪も、身体にフィットするソファみたいで悪くない。
「あー、もう。ハマっちゃって抜けないよ。どうしてくれんのよこれ」
ね、はじめさん?と彼に向かって右手を伸ばした。「引っ張って」
「しょうがねぇな」
ほら、と手が握られた瞬間、私は力一杯その腕を引っ張り返した。
不意打ちと重力の合わせ技。岩泉は大きく身体のバランスを崩して、でも寸でのところで倒れる方向をなんとか変えて、私の真横に頭から突っ込んでいった。