第2章 受験生と生チョコトリュフ(ハイキュー!!/岩泉一)
「………なまえ?」
岩泉が振り返る。銀色の月光が積もった雪に反射して、彼の姿を照らしていた。
「なんかさぁ、」
音も匂いも、感じる世界が全て、遠く感じる。「私、もやもやする」
ここ、と胸の間に手を置いた。ちょうど真ん中。いつからかなんて知らないけれど、私の身体の中心には、目に見えない煙みたいなものが存在するようになっていた。きっと濁った色をしている。しかも日ごとに大きくなってる。近いうちに、この煙が喉の粘膜に張り付いて、私の息を止めてしまうのかもしれない。
なんだろう、と呟いたら、岩泉は怪訝そうに首を傾げた。
「そこはアレだな。心臓」
「心臓……?そっか」
未来のことに不安になると、心臓にもやがかかるのか。
なぜかストンと納得できて、止まっていた足が動き始めた。岩泉の隣に並んで、わざと身体を近づける。
「前期試験まで、あと少しだね」
「......だな」
「ホテル予約した?」
「した」
「新幹線も?」
「まぁ」
「いいなぁ、お土産よろしくね」
「旅行じゃねぇよ」
会話に中身がないのは相変わらずで、黒いブーツの先を見ながら、無駄にステップを踏んでみる。両腕を回す。頭の疲労と身体の疲労が噛み合ない。うずうずしてくる。「あー!」と、口から声が出た。
「誰でも良いから殴りたい!」
言いながら岩泉の腕に軽くパンチを繰り出した。「頑張れってみんな言うけど、わかってるよ!言われなくても頑張るよ!」
「そ。言われなくても俺たちは頑張る」
「第一志望受かるかなぁ、受かる!きっと受かるよ!私ならやれる!春から明るいキャンパスライフ!新生活!でも落ちたら一年浪人生活」
「あんまり悩みすぎんなよ。落ちても死にはしないんだから」
「わかってる。わかってるよ。だけど、落ちたら人生も終わる気がする」