第2章 受験生と生チョコトリュフ(ハイキュー!!/岩泉一)
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「30分って言ったじゃない」
電気の消えた昇降口。マフラーに顔の下半分を埋めて文句を言えば、「悪かった」とコート姿の岩泉が頭を掻いた。
「全然時計見えてなかった」
「この前みたく終バス逃したらどうすんのよバカ!ほら、早く急いで!」
恋人を急かしながら、うー!とその場で高速足踏み。黒いブーツの先がカチカチと鳴る。
「なにやってんだ?なまえ」
「ストレス!」
「俺のせい?」
「違う!」
彼が靴を履き替えたのを確認してから、私はその大きな背中をぐいぐい押した。早く歩いて欲しいんじゃない。少しでも触れていたかったから。
「ずーーーっと勉強して頭だけ使ってるとさ、なんか体がうずうずしてこない?動きたくなる!」
「まぁ、言われてみればそうかもな……んな押すなって」
「あー!受験ストレス!」
「うるせぇ」
「あそびたい!!!」
叫びながら校舎の外へ彼を押し出す。雪はいつの間にか止んでいて、外は一面銀世界。耳が切れそうなくらい鋭い空気が、肺の中へと侵入してくる。
「頭の疲労と、身体の疲労のバランスがおかしいんだよ。だから運動したくなるんだよねー、岩泉くん」
「知らね」
「バス停まで競走しない?」
「勝手にやってろ」
素っ気ない態度をしているけれど、なんだかんだ言って岩泉は優しい男だ。先ほどから彼の歩幅を小さくさせているのは、なにも凍った道路だけが理由ではない。
隣でわざとゆっくり歩いている私は、いつも彼の優しさを確認している。駄目だと分かっていながら甘えてしまう。誰かがつけた足跡を辿りながら、意味のない愚痴を吐き出していく。
「イライラするよー、ウズウズするよー!勉強なんてもう嫌だよぅ」
「俺だって嫌だ」
「何故私たちは18になるこの時期に、勉強という不快なストレスに身を晒さなければならぬのか」
「俺に聞くなよ」
「神様に聞いてるんだよ。ね、神様?」
顔を上げると、南の空に斜めに3つ星が輝いていた。狩人オリオンの腰の部分。
紺色の夜空に浮かぶその星座は、教科書で見たものよりもずっと明るく、大きくて綺麗なものだった。思わず足と言葉が止まった。