第1章 +1
俺にはこいつの不安なんて知らねぇし、話聞くだけじゃわかってやることも出来ねえ。
「もうわかったから何も言うな。」
でも、付き合いの長い俺だからこそ言ってやれることがあるはずだ。
暖かくて頼もしくて、ちょっと力がこもってて苦しいけどそれが嬉しくて。
でももう飛雄には迷惑かけ過ぎてる。今だって一方的に話聞かせちゃって。
もう迷惑かけたくないって思っても、何処かでまだ飛雄に縋りたい自分が邪魔をして、飛雄の腕の中で泣いた。
こいつが泣いてくれて良かったと思った。
中学の時、俺の前で泣くこいつは怒り任せに感情を吐き散らしているだけだった。
純粋に泣いてくれるのは頼られてる気がして嬉しいなんて思っちまう。
力が籠っているのに割れ物を扱っているように繊細に丁寧に抱き締められていた。
暖かい、優しい手が私の頭を撫でてくれる。
勘違いなんかじゃない。今まで気付かなかっただけだ。なんでこんな単純な事に気付けなかったんだろう。
私は飛雄の事が好きだったんだ。
飛雄が帰ってから約1時間
間に合わないけどそれでもいい。
飛雄に贈ろう。1日遅れのチョコレートを渡そう。
時間も時間だし買い物には行けないからそんな大層なものは作れないけど、明日絶対届けたい。「ありがとう」って。
_____「大丈夫か?」
単純な言葉からじわりと滲む不器用さも
_____「もうわかったから何も言うな。」
全てを包み込んでくれる温もりも
全部、全部ありがとうって。
これからもよろしくって。
幼馴染だとか好きだからとか今は関係ない。
不安を吹っ切らせてくれたお礼をしたいんだ。
その思い全部を溶けたミルクチョコレートと一緒に型に流し込んだ。
携帯を起動して飛雄にメール
『明日、部活終わったら待ってて。一緒に帰ろう。』
1日遅れのバレンタイン。
飛雄、明日ちゃんと伝えるよ。