第2章 誰も知らない
そして完成した甘酒を湯のみに注いで両手に持つと勝手場を後にした。
屯所の中は静かな空気が張り詰めていて、耳に入るのは自分の足音だけだった。
でも、平助君が自室の前の縁側に足を投げ出し座っている姿が目に入るとちょっとだけホッとした自分がいた。
私がこの名前を呼んだのはこれで何回目だろう。
「平助君」
でも案の定平助君は返事どころか反応すらしてくれない。
名前を呼ぶのがダメなら今度は肩を叩いてみよう。
そんな安易な結論に辿り着くと湯のみを平助君の隣に置く。
「ん?おわっ⁉︎ち、千鶴?お前いつからそこに居たんだよ。」
「え?」
気付いてくれた、よかったという思いより、湯のみを隣に置く事で存在に気付くという予想外な展開の方に驚いてしまった。
急にいつもの平助君らしさを感じて思わず笑みがこぼれたりして。
「甘酒作ったんだけど、よかったら一緒に飲もうと思って持ってきたの。」